リズム考(9) 「五七調」が朗読できますか?

前回は、七五調と四拍子の良好な関係と、反対に、五七調と四拍子の相容れぬ関係について考えた。
四拍子脳になっている私には、七五調はすんなり読めるが、五七調というものをどう朗読したらいいか、正直わからない
普通はすんなり読めるのかしら?


例えば、「君が代」はどうか。

君が代は千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで

これは二句切れの五七調なので、 「君が代は千代に八千代に、さざれ石の巌となりて、苔のむすまで。」と読みたい。 「君が代は、千代に八千代にさざれ石の、巌となりて苔のむすまで。」じゃ変だ。
別に意味の切れ目とリズムの切れ目が違ってもいいじゃん、と思う人に取っては、ここから先の話はどうだって良い話だ。しかし、「君が代は千代に八千代に、さざれ石の巌となりて、苔のむすまで。」と綺麗に読みたいという人(=私)は、どうしたらいいか。ようするに、四拍子に頼れない場合、何を頼って読めばいいのか、ということが問題になる。

君が代、君が代と言っていると、リズムの話と全く関係のない、政治的な話をしたくて仕方ない人が湧くかもしれないので、『貧窮問答歌』に戻そう。

あめつちは ひろしといへど
わがためは さくやなりぬる
ひつきは  あかしといへど
わがためは てりやたまはむ

ここからは、この『貧窮問答歌』を例に、五七調の「正しい読み方」を考えてみようと思う。
それは、現代人である私が読みやすい読み方であり、生物学的にはなんら変わりのない7・8世紀頃の人にとっても、きっと読みにくくはない読み方になるはずだ。


まずお馴染みの表。七五調を四拍子で読む場合。

七五調
1   2   3   4   5   6   7   8   
◯◯◯◯◯・・・◯◯◯◯◯◯◯・◯◯◯◯◯・・・◯◯◯◯◯◯◯・
あめつちは・・・ひろしといへど・わがためは・・・さくやなりぬる・


これを、全体の長さ、休符の取り方を変えずに、休符の位置だけを変えて五七調にしてみる。

五七調
1   2   3   4   5   6   7   8    
◯◯◯◯◯・◯◯◯◯◯◯◯・・・◯◯◯◯◯・◯◯◯◯◯◯◯・・・
あめつちは・ひろしといへど・・・わがためは・さくやなりぬる・・・


これで句切れと休符の位置は合った。しかし、四拍子に合わせて手を叩くと、こうなる。

あめつち/わっひろ/しといえ/ど・・・
わがため/わっさく/やなりぬ/る・・・

無駄にオシャレだ。拍の頭と語の頭をズラした技巧的なラップのように現代的だ。
こんな風に昔の人が読んでいたとは到底思えない。


【A案】3拍子風
では、このように拍を取り直したらどうだろうか。 

1     2     3   1     2     3      
◯◯◯◯◯・◯◯◯◯◯◯◯・・・◯◯◯◯◯・◯◯◯◯◯◯◯・・・
あめつちは・ひろしといへど・・・わがためは・さくやなりぬる・・・ 


さきほどと全体の長さも各音の長さも変えていない。だが拍の取り方を変えた。
このように拍を取ると、「1拍6連+1拍6連+1拍6連のうち4」となり、一小節あたり「1拍+1拍+2/3拍=8/3拍」という、三拍目がちょっと足りない三拍子になる。
別の言い方をすると、四拍子で「4×4」と取っていた「16音」を、ここでは「6+6+4」と取るのである。

「あめつちは、ひろしといへど。わがためは、さくやなりぬる。」

これで読んでみると、悪くはない感じがする。というか、五七調がかなり読みやすくなった。
しかし、「8/3拍」が数えにくいこと、そして、どことなく単調につづくことが気になる。


【B案】小池理論風
個人的には、「あめつちは、ひろしといへど。」の「、」を抜いて一気に読みたい。だが、A案だと初句を六音としない限り、そうはいかない。
そこで、小池理論風に「1拍5連+1拍7連+適当に休む」とすることで、これを解決する読み方もあると思う。同じ時間にゆっくり5文字読み、続けざまに早口に7文字読み、少し休む、という繰り返しである。しかし、これは個人的にしっくりこなかった。


【C案】5+8を基本とする「短+長」リズム 
A案でもうひとつ気になるのが、「五七」と次の「五七」の間の休符が長過ぎて、両者が分断されていることである。それだと、すべての「五七」が互いに対等かのように感じられる。
しかし、例えば冒頭は「天地は広しといへど吾が為は狭くやなりぬる」「日月は明かしといへど吾が為は照りや給はむ」が対句的表現になっているのであり、「五七」×4ではなく「五七五七」×2の構造である。また、他にも意味的に「五七五七」が繋がっている部分もある。例えば、終盤に出てくる、 「楚(しもと)取る里長が声は寝屋戸まで来立ち呼ばひぬ」 の部分は、「楚取る、里長が声は。寝屋戸まで、来立ち呼ばひぬ。」ではなく、 「楚取る里長が声は、寝屋戸まで来立ち呼ばひぬ。」と読みたい。
これを解決する、いまのところ自分にとって最もしっくりくる読みが、これである。

1    2       1    2      
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯・◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯・
あめつちはひろしといへど・わがためはさくやなりぬる・ 


1拍目を5文字分の長さ、2拍目を8文字分の長さとした、「短+長」2拍のリズムである。

「あめつちはひろしといへど、わがためはさくやなりぬる。」

これがいい。私にとっては、これが圧倒的に読みやすい。

さらに、自分が気持ちいいのは、字余り・字足らず等のイレギュラーまで全てを「5+8」のリズムに揃えるのではなくて、「続けて読みたい所は続けて読むが、休みたい所は「・」一個分休む。」である。段々とルールが柔らかくなってきたが、『貧窮問答歌』の後半全体を書くとこうなる。すこしゆっくりめに、全ての音と休符を同じ時間で読んでいく。


あめつちはひろしといへど・   5+8
わがためはさくやなりぬる・   5+8
ひつきはあかしといへど・    4+8
わがためはてりやたまはむ・   5+8
ひとみなか・われのみやしかる・ 6+9
わくらばにひととはあるを・   5+8
ひとなみにわれもつくるを・   5+8
わたもなきぬのかたぎぬの・   5+8
みるのごとわわけさがれる・   5+8
かかふのみかたにうちかけ・   5+8
ふせいおのまげいおのうちに・  5+9
ひたつちにわらときしきて・   5+8
ちちはははまくらのほうに・   5+8
つまこどもはあしのほうに・   5+8
かこみいてうれえさまよひ・   5+8
かまどにはほけふきたてず・   5+8
こしきにはくものすかきて・   5+8
いいかしくこともわすれて・   5+8
ぬえどりののどよひいるに・   5+8
いとのきてみじかきものを・   5+8
はしきるといえるがごとく・   5+8
しもととるさとおさがこえは・  5+9
ねやどまできたちよばひぬ・   5+8
かくばかりすべなきものか・   5+8
よのなかのみち         7


さて、この読みかたがしっくりくるということで、五七調と七五調の気持ちいい読みをまとめて書くとこうなる。

五七調 = 「5+8」の短長リズム
七五調 = 四拍子


しかし、これにはこんな批判が来るかもしれない。

「四拍子はリズムと呼べるが、『5+8』をリズムと呼ぶのはおかしい!」
「五七調の気持ちいい読みが『5+8』って、それほぼ同語反復だろwwww」

だが、「5+8」の短長リズムは、れっきとしたリズムである。
そのことを証明してくれるのが、ジャズ・ピアニストのヴィジェイ・アイヤーである。


その(10)につづく。


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