リズム考(2) 四拍子 vs 三拍子の歌

五七五七七は四拍子だと思っていたが、なんとなく怪しい。それなら何なのかと先を急ぐ前に、ちょっと三拍子の歌の話をしてみよう。 

一般に三拍子は西欧のもので、日本にはなかったリズムだと言われる。私もそれはそうだろうと思う。
しかし私が生まれた時には当然はじめからあって、それは例えば唱歌・童謡にたくさん残っている。例えば、「こいのぼり」「あかとんぼ」「うみ」「仰げば尊し」「朧月夜」「故郷」「ぞうさん」である。

こいのぼり
やねよりたかい こいのぼり
おおきいまごいは おとおさん
ちいさいひごいは こどもたち
おもしろそうに およいでる

はい、この「こいのぼり」。歌は三拍子だが、歌詞は七五調、つまり四拍子である。歌わずに朗読してほしい。私が朗読すると(もしくは西洋ナイズされた私が朗読すると)四拍子になる。
※ここでは部分的に七→八の増音があるが、もともと四拍子で読むときは「八」✕5小節なので、八音までは増えても問題ない。(前回の「秋来ぬと…」参照)
このような、歌うと三拍子、朗読すると四拍子という「似非三拍子唱歌」は多く、「あかとんぼ」と「うみ」もこの種族の一員である。

あかとんぼ (七五調の亜種としての八五調)
ゆうやけこやけの あかとんぼ
おわれてみたのは いつのひか…

うみ (七五調)
うみはひろいな おおきいな
つきがのぼるし ひがしずむ…


一方、「仰げば尊し」と「朧月夜」は、八六調と呼ばれる。

仰げば尊し (八六調)
あおげばとうとし わがしのおん
おしえのにわにも はやいくとせ

朧月夜 (八六調)
なのはなばたけに いりひうすれ
みわたすやまのは かすみふかし

八文字+六文字なので八六調。
少し音楽的な話をすると、「仰げば尊し」は徹底して「タータタータ」の馬鹿正直なバカリズムなので、親指・人差し指・中指の準に「トン、トッ、トッ、トン、トッ、トッ」と机を叩きながら歌うと、人差し指には絶対歌わないことになる(歌い出しが中指なことに注意)。これとくらべると「朧月夜」は技巧的に段違いに素晴らしく、「あおげばとうとし」とダラダラ言っているあいだに「いりひうすれ」までを流暢に歌い終わる。
この二つの差は、実は「仰げば尊し」が6/8拍子であり、3/4拍子ではないということに少なからず起因する。「え?6/8拍子と3/4拍子って何が違うの?」というのは頻出の質問で、私も最近まで知らなかった。曰く、3/4拍子こそが正真正銘の三拍子で、6/8拍子とは三拍子のふりをした二拍子なのだそうだ。一小節の中で6/8拍子は「トン、トッ、トッ、トン、トッ、トッ」と鳴るので、トン(強拍)で二等分された二拍子なのである。二拍子というのはかなり単純なリズムであり、よって「仰げば尊し」は「朧月夜」よりも単調になっている。
さて、音楽的にはまるで違う二つだが、文字にすればどちらも八六調である。この八六調を朗読するとどうなるか。やっぱり、八六調は四拍子で読めてしまうと思う。「八」「六+二」で朗読可能なのだ。
短歌の世界でも、増音=字余りはけっこう許されるらしい。だから七五が八五になって八六になっても、「八」が背後に透けて見えていればリズムは変わらない。

怪しい怪しい四拍子説だが、私は八六調も四拍子で読んでしまった。四拍子は、八六調の出現程度では揺るがないようだ。


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