リズム考(7) 3曲分析

日本語のリズムの話に戻ろうと思ったけど、FBのコメントで3人から3曲紹介があったので、今回はその分析に充てようと思う。寄り道とはいえ、リズムに関する重要な概念がたくさん出てきて、なかなか厚みのある内容になった。


 紹介があったのはこの3曲。 

 ・童謡「この道」 (作詞:北原白秋、作曲:山田耕筰)
 ・坂本龍一「+33」 
 ・チベット仏教の音楽「Mantra of Avalokiteshvara」 

よくもまぁこんなにバラけたと思うほど毛色の違う3曲が並び、それぞれに興味深いことになっている。


 「この道」 



なんとなく知ってるけど、個人的には小学校等で歌わなかった童謡・唱歌なので、とりあえず聞いてみた。
私はまず4拍子だと思って聞いていたが、「ああ~」のあたりで崩された。そしてリズムを見失う。
きっとこれは「あんたがたどこさ」系の童謡だ。

あんたがたどこさは、2拍子と3拍子が自由に入れ替わる曲である。

 あんたがたどこさ
 ひごさ
 ひごどこさ
 くまもとさ
 くまもとどこさ
 せんばさ
=2拍子×2、=3拍子)

というように。
このように、切れ目が偶数だったり奇数だったりするから、ずっと4拍子でカウントしても、ずっと3拍子でカウントしても、ズラされてリズムを見失うのである。
「この道」の場合、こんな感じで区切るのがしっくりくる。(歌い出しの部分は最後に書いたので、ループになっている)

1 2 3 4 5 6 7 
ち・は・・いつかきたみ・ち・|
・ああ・・そうだよ・・・|
・あかしあ・の・お・|
・はながさいて・|
る・・このみ|
※「ああ」の部分がテヌート(ゆっくりのばす)なので、ちょっと注意

このように「7+6+5+4+3拍子」と捉えて聞くとクリアになると思う。
もちろん7の部分を2と3で分割していってもいいが、意味的にも音楽的にも、大きな切れ目はこれで間違いないはず。
ちなみに「この道」の歌詞は、五七調に「ああそうだよ」の感嘆がサンドイッチされている構造。


「+33」



最初に聞くとドキっとするが、実はこの曲は純粋な3/4拍子で、3拍4連がひたすら続くモノリズムと言っていい曲である。それも、いろいろズレているように見えて、実際はたったの2小節で頭に戻る超単純ループである。
3拍4連=「12」の、2小節分で「24」。この24音を、A=12等分したもの、B=12等分したもの、C=6等分したもの、の3つが鳴っている。6、12、24という数字は、単純な倍数である。

 1   2   3   1   2   3   
 ・◎・◯・◯・◎・◯・◯・◎・◯・◯・◎・◯・◯
 ◯・◎・◯・◯・◯・◎・◯・◯・◯・◎・◯・◯・
 ◎・・・◯・・・◯・・・◎・・・◯・・・◯・・・

ただし、三つ仕掛けがしてある。
一つ目の仕掛けは、アクセントを、A=4等分B=3等分C=2等分としたこと。これによって、ズレが生まれる。
二つ目の仕掛けは、(Aだけ聴いているとわからないが、)Aを裏拍にしたこと。これの効果は三つ目の仕掛けとセットになることで威力を発揮する。
三つ目の仕掛けは、本当の構造であるCを後出しにして、まずA、つぎにB、最後にCという順に足していったこと。これによって、曲の頭がどこにくるか掴みづらくしている。特に、最初に気持よく聴いていたAが実は裏拍だったというところがミソだ。

しかし、この曲はウワモノのアクセントにクロス的な要素が若干あるかもしれないが、基本の3拍4連の構造が揺るぎないので、モノリズムである。
ちなみに、この曲は前にとりあげた「12」を基本とする音楽なので、菊地成孔の「モダンポリリズム講義」を聞いて訓練すれば、4拍3連として聴くことができるようになる。かなり3拍4連が強いので、4拍子で手拍子するのは初学者には厳しい練習曲になる。4拍子の手拍子の位置を追加してみよう。

 1   2   3   1   2   3   
 ・◎・◯・◯・◎・◯・◯・◎・◯・◯・◎・◯・◯
 ◯・◎・◯・◯・◯・◎・◯・◯・◯・◎・◯・◯・
 ◎・・・◯・・・◯・・・◎・・・◯・・・◯・・・
 ◎・・◎・・◎・・◎・・◎・・◎・・◎・・◎・・

これが自由に叩けるようになれば、「モダンポリリズム講義」の第一関門突破である。

それからもうひとつ。この曲は連符を全て弾く(休符がない)という点で、アフリカ音楽とは程遠い、がっちり西洋のクラシックな音楽である。良くてスティーブ・ライヒだ(と書くといろいろな方面に失礼だが)。
菊地先生いわく、クラシックとアフリカ音楽の違いは、全部弾くか、適当に抜きながら弾くかである。

クラシック
ターー/ターー/ターー/ターー
タタタ/タタタ/タタタ/タタタ

アフリカ
タッタ/ンタン/ンッタ/ッタタ 等。


「Mantra of Avalokiteshvara」



どんな曲かと思ったら、チベット仏教の音楽なのか。日本語だと「聖観音のマントラ」となる模様。
聞いてて飽きない、穏やかで雄大で優しい曲である。

実はこれ、「モダンポリリズム講義」第2章と深い関係にある曲なんじゃないかと思う。しかし、第2章はまだ始まったばかりで、よくわからない。わからないなりに言うと、同じ時間を3で割ったり4で割ったり5で割ったりという「割り算の世界」とは全く別世界である、「足し算(引き算)の世界」、とくにインド音楽の世界と関係があるはずだ。

この曲のイントロはごくごく普通の4拍子で始まる。だが、コーラスが入ると歌の切れ目がてんでバラバラで、何拍子かと聞かれると困る展開を見せる。とは言っても、複雑なリズムすぎて手拍子を叩くのも困難ということはなく、むしろ手拍子は誰でも簡単に叩ける。

はっきりと言ってしまうと、この曲は「104拍子」だと思う。

3とか4とか言っていたのに、いきなり「104拍子」はないだろうという気がするが、仮にこのチベット音楽をインド音楽と関連のあるものと考えていいのであれば、ない話ではない。
一応、歌のパートの分節を、歌の切れ目とベースの音に頼って分析してみた。(前奏・間奏はただの4拍子なので割愛)

  1234567890
 ◎・・◎◎・◎・・|
 ◎・・・◎・|
 ◎・・◎・・|
 ◎・・◎・・◎|
 ◎・・・・・◎・|
 ◎・・◎・・◎・◎・|
 ◎・・◎・|
 ◎・・・・◎・|
 ◎・・◎・◎・|
 ◎・◎◎・◎| てぃりてぃーり、とぅるとぅーる
 ◎・・◎・・|
 ◎・◎◎・◎|
 ◎・◎・◎・|
 ◎・・◎・・・|
 ◎・・・◎・・◎|
  ◎~(間奏)
※「0」は「10」の意。文字ズレしちゃうので。

これらを足すと、「104」。「108」なら煩悩の数ということで仏教感が高まってよかったのだが、よくわからない「104」である。
「104」でようやく一周する曲なんて……と思って、約数である「52」、「26」、「13」を疑ってみたが、そうやって数えてもまったく切りが悪かった。これは割る世界じゃなくて、足し引きの世界なのだ。考え方を変えなければならない。
だいたい、105拍目になるまで、リズムに限らず音程的にも解決しないのだ。ベースの音程を聞くとわかるが、毎回毎回いちいち終わりそう、終わりそうと思わせながら焦らして、1拍目でルートの音に戻らないまま延々と続けるのである。だからこそ、ついに解決した時の喜び・宗教的な高揚感が堪らない。そして輪廻転生を思わせる無限ループである。生まれて、でこぼこ人生を歩み、やっとの思いで天国に昇天、そしてまた生まれる……的な。


というわけで、長い寄り道でした。


リズム考(8)につづく。


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