リズム考(6) ポリリズム表、無料進呈

前回紹介した小池理論が、正しい短歌のリズム、日本語のリズムなのかどうかは知らない。なんだか、きっと「正しい」なんてものはないのだろうという気がしてくる。だが、小池理論を取り上げて良かったと思うのは、音楽の話、とりわけポリリズムの話に広がっていくことである。今回は、短歌、五七五七七を離れて、自作音楽の紹介をしてみようと思う。なぜリズムの話にこんなにハマっているかというと、音楽におけるリズム遊びが楽しくてたまらないからだ。


『粋な夜電波』で有名なジャズミュージシャン、菊地成孔は、私塾やニコニコ動画において音楽理論の講座を持っている。いまアツいのは「モダンポリリズム講義」(有料)である。

「モダンポリリズム講義」は、「西洋式の記譜には、分音符と連符という二種類の呼び方がなぜ統一されずに存在するのか?」という話から始まる一大論考である。話はその後、クロスリズムを経て、ポリリズム、そしてラップへと進んでいっている。(現在は第一部が終わったところ)

すでに各話30分前後×50回なので、こんなところで詳しく書くことはできないが、たとえばクロスリズムの習得だけでも楽しい。クロスリズムの習得というのは、例えば「12」を「3×4」と捉えるか「4×3」と捉えるか、その行き来が自由に出来るようになることを言う。授業では、アフリカ音楽の一部分をひらすら繰り返し聞いて、それを頭のなかで4で割ったり3で割ったりする訓練をする。例えば、

◯・・◯・・◯・・◯・・ (4拍3連)
ドントツタタタットツタタ
インドアフロイトイスラム

◯・・・◯・・・◯・・・ (3拍4連)
ドントツタタタットツタタ
インドアフロイトイスラム

「ドント/ツタタ/タット/ツタタ」「ドントツ/タタタッ/トツタタ」
「インド/アフロ/糸井/スラム」「インドア/フロイト/イスラム」(これは菊地氏じゃなくて私が勝手に考えたものだけど)。
もうね、これが自由に行き来できるようになるだけで楽しい。菊地氏いわく「世界の見方が倍になる」のだが、まさにその通りで、この世の「12」に根ざした音楽ならどんな音楽でも二通りに聴けるようになるのである。これをクロスリズムと呼ぶ。(さらに、ポリリズムの訓練を受ければ、「12」にとらわれることなく、全ての音楽を自由に割ることができるようになる。)


私は、短歌は作らないが音楽は作るので、ポリリズム作曲用にこんなものを作ってみた。
題して「ポリリズム表」である。

使い方は自由。ダウンロード自由なので、ぜひ音楽をつくる人は手にとって欲しい(画像上の「Pop-out」をクリックして別窓で開いたら、上部にダウンロードボタンがあります)。

これを眺めているだけで、いろいろな発見ができる。


というわけで、この表を使って試しに練習曲を3曲つくってみた。


「study1 4x5クロス」


この曲は、イントロでかわいいシロフォンの響きが入ると「1、2、3、4、5」の五拍子が全面に聴こえて来る。しかし、ドラムとエレキベースがばーんと入ると、シロフォンの五拍子はそのままなのに、同時に四拍子が数えやすくなる。同じ時間を5で割ってたものを突然4で割ることになるため、体感として遅くなって感じる。この時間感覚のズレがクロスリズムの楽しみだ。だが、一度ベースが姿を消して再度復活すると、今度は紛れもない五拍子になっている。そして最後にもう一度四拍子をチラ見せして終わり。
この曲の背景には「20」という数字があり、それが「5✕4」だったり「4✕5」だったりする。ベースを5でも4でも取れるものにしておいて、ドラムの方でアクセントを変えるこというのがコツである。


「study2 16と21」


この曲は複雑だ。イントロのピアノの打鍵は5拍目が「もたっている」崩れた五拍子に聴こえる。この時点ではまだどこが曲のスタートなのかよくわからない。しかし、スチールパンとドラムが入ると曲の正体が判明する。実は「16」という数字が「3+3+4+3+3」で割られていて、「もたっている」のは真ん中だったのだ。だが、なるほどと思っていたのも束の間、突然ドラムがスピードを上げ単純な四拍子になる。これは「16」を「2✕8」と捉えた姿である。かなり異様な「3+3+4+3+3」というリズムが、実は「2✕8」という安定した数字と兄弟だったのだ。
だがこの曲が本当におかしいのは、途中、ドラムが消えて復活した後に7拍子として復活することである。ハット、そして最初から鳴り続けているスチールパンに合わせて手を叩けば、最初と変わらぬ同じ時間を、7拍で割っていることがわかる。
変なのは、「16」という数字の世界で7で割る行為が現れたのに、あまり変に聞こえないことである。その証拠に、曲の最後あたりで、あの「真ん中がもたっているリズム」にすんなり戻る。

……というのは、実はちょっと嘘をついている。最後に戻った「真ん中がもたっているリズム」は、本当は、前半の「真ん中がもたっているリズム」とは似てはいるが別物なのである。図にすると下のようになる。

「真ん中がもたっているリズム1」 ◎・・◎・・◎・・・◎・・◎・・ 16
「ドラムがスピードアップした所」 ◎・◎・◎・◎・◎・◎・◎・◎・ 16
       ↓
「いつのまにか7拍子になってる」 ◎・・◎・・◎・・◎・・◎・・◎・・◎・・ 21
「真ん中がもたっているリズム2」 ◎・・・◎・・・◎・・・・◎・・・◎・・・ 21

テキストで表記する都合上、全体の長さが伸びているように見えるが、この「16」と「21」は同じ時間の中で起きている。
そして、「16」と「21」が違和感なく連続するというマジックを捏造するために、「真ん中がもたっているリズム1」で音が出る可能性のある16箇所と、「真ん中がもたっているリズム2」で音が出る可能性のある21箇所を見比べて、とっても似ている5箇所だけを取り出して強調したのだ。
その5箇所とは、

3/16、6/16、10/16、13/16、16/16
4/21、8/21、13/21、17/21、21/21

である。これらを小数で書き換えると、それぞれ、

0.1875、0.3750、0.6250、0.8125、1.0000
0.1905、0.3810、0.6190、0.8095、1.0000

であり、差をとると、

0.0030、0.0060、0.0060、0.0030、0.0000

となる。これらの音が発音されるタイミングは、人の耳からするとほとんど一緒と言っていい。
比較のため、もっとも音が離れる中央部、つまり8/16と10/21は小数にすると、0.5000と0.4762であり、差は0.0238となる。これは、選んだ5箇所と比べると、4倍から8倍ズレが大きいということになる。

こうして、こんなに長く解説するほど面白い曲じゃねぇよ!というお叱りを颯爽と聞き流しつつ説明してみたが、どうでしょう。個人的にはすごく面白いんですこういうのが。

「study3 6x4クロス」という曲も、当ブログのMUSICに載せてるので、興味があればぜひ。


というわけで、今回はこの辺にして、次回は言葉に戻ろうと思う。

リズム考(7)につづく。


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